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姫の言葉と視線は、ゴルドへと向けられるが、彼はその視線に応えず項垂れる。
「・・・皆は若い・・・、あの男の恐さを知らんのだよ・・・」
ポツリ―…と言い放つゴルドのか細い声。普段の彼なら姫の素行を窘(たしな)めるが、ただ肩を落とすばかりで何も言わない。
それはこれから向かう先、待ち受ける男の存在に確かな恐怖心を植え付けられた為。
「何が、何がそんなに恐ろしい?」
姫の言葉にただ震えるだけのゴルド。大きな身体を亀の様に丸めると、譫言(うわごと)の様に「思い出したく無い・・・、思い出したく無いんだ・・・」と繰り返していた。
精鋭と言われるオルティアの騎士達は、脅える団長を眺めながら、まだ見ぬ男の型成りを想像した。
人が闇を恐れるのと変わらず、男の存在に霞みがかった畏怖を覚えていた。
慣れた夜営もこの時だけは、初陣の夜を想わせる如く、大きな不安と僅かな期待が夜を包み込んで行く。
伝説の男は野蛮な熊か、はたまた凛とした神々しさの英雄か。物語りの先を空想で色付けて、静かな夜に寝息だけが風に流れていった───
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