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確かに国を救ってくれたのならば功績は大きい。
男に対して人目に付かない山奥を与えたのは当然だが、今だに力を借りなければ為らないとは、功績以上の理由が有る。
「本当に・・・竜を倒して国を救ったのか?」
誰かが呟いたが、全員が同じ事を考えていた。
伝説に何の誇張も無かったら?
巨大な古のドラゴンを屠る力、実際に男が持っているのでは?
それからは皆が口を紡いで一言も漏らさなかった。
暖かな朝日も、心地好い風も、男に対する興味と恐怖で感じる事が出来なくなっていた。
次第に道が開けると、山の奥に小さな祠(ほこら)の様な洞窟が見えた。
「あそこだ・・・。男はあの中に住み着いてる筈だ」
ゴルドの言葉が若い騎士の警戒を強くさせた。
既に彼等の心の中では、伝説の男は悪魔の様な型成りを連想させていた。
「良いか、騎士としてのプライドや奢りは、全てここで棄てて行け。奴を怒らせては成らんぞ・・・自分の命を粗末に扱ってはイカン」
ゴルドの声が骨身に染み込んでゆくのを感じながら、全員が静かに洞窟の前で足を止めていた。
太陽の光も届かない、暗く湿った洞窟の先に不気味な存在を想いながら。
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