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洞窟の奥からは山の外気とは異質な、湿りの有る生暖かい風を感じる。
足を踏み入れるのに戸惑うのは、先程まで目を輝かせていた姫も同じだった。
誰も一歩が踏み出せない。
精鋭として選ばれた騎士が、むしろこのまま逃げ帰りたいとすら思った。
何か理由を付ければ良い。「会えなかった」「居なかった」「死んでいた」だが今回はオルティアの王より直々の勅命。
ゴルド以外は姫さえも内容を知らされて無いが、必ず達さなくては為らない。
洞窟は間近で見ると見上げる程の高さで、ここに住み出入りする男の巨体を想像させる。
軽く覗き込むと、直ぐ先に木製の扉が見て取れる。
自然の洞窟を住まいとして利用した造りだろう。穴の壁は左右で高さも幅も異なっており、人為的に掘り出された物で無いのが分かる。
「さ、さあ、行くぞ」
意を決したゴルドが前へと踏み出して、木製の扉の前に立った。
ゴルドは元オルティアの稲妻とまで言われた騎士。今は小太りで腹が前へと突き出してはいるが、生まれ持った大きな身体は身長だけでもこの中で1番高い。
だが扉の前でドアノブを掴む彼は、普通ならば腰の辺りに有るノブが胸の高さに有り、中で待つ男が更に巨体で有る事が分かった。
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