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「良いな・・・、
───必ず守るのだぞ」
繰り返し説かれる注意事項。
既に耳蛸な話し。髭に隠れた口からこぼれる説教にも似た言葉には、黙って聞く騎士達の誰もが欠伸を抑えるのに必死だった。
王都アルフを出てからは長い田舎道を進んだ。都会と違う、緑溢れる光景。それが心地好く感じたのは最初だけだった。
今では、馬上で眉をくの字に曲げる騎士団長の小言に、皆が揃って飽き飽きしている。
領の境に有る木々の生い茂る辺境の山。それが彼等の目指す目的地。
とても道とは言えない砂利道や、雑草の生い茂る獣道。荷馬車は不安定に揺れながらも長い道中を行く。
馬車の積み荷は大量の酒樽。それを護衛する4人の騎士。凛とたくましい軍馬。重厚な白銀の鎧。顔を覆う鉄の仮面。
彼らは大国オルティアの一等騎士だった。
酒樽に4人の護衛。しかも彼等は、騎士としても一流の手練れ。
それぞれに自覚が有るのか、皆が長旅の疲れなど微塵も感じさせぬ様に、凛と背を伸ばし騎乗している。
「決して、怒らせてはならんぞ」
その中で最も年長の騎士。
彼が、繰り返し口にするのは注意だけ。これから会いに行く相手、その機嫌を損ねるなと。
皆いい加減に聞き飽きては居た。だが、彼はオルティアでも一目置かれる騎士団長。かつてはオルティアの稲妻として、戦場で名を馳せた騎士。
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