伝説の男

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ようやく団長の小言から解放される。皆が安堵で胸を撫で下ろした所で、今度はゴルドの武勇伝が始まった。 「あれは、私がオルティアに仕える前の話しだ、道中ケルン平原で遭遇したのは───」 何を間違えたか、彼等は目的地に着くまでの間、永いゴルド団長の戦記を聞かされる事になった。 ゴーレムとの戦い。セイレーンとの恋。どれもが伝説以上に脚色された耳障りな話しだった。 落胆の中で、荷馬車の車輪だけが変わらず回り続けている。 今では肥満のオルティアの稲妻は、そんな車輪の音も、田舎の風景も、すべてを無視して自身の物語りに舌鼓を打っていた。 「あはは、ゴルド殿の話しは毎度中身が増して行くな」 荷馬車の中、酒樽の横では白銀の鎧を纏った騎士が一人、馬車からの景色を楽しんでいた。 この騎士だけは馬には跨がらず、荷馬車の床板に腰を下ろして期待に胸躍らせていた。 「伝説の男か―…、魔も竜も神さえ一目置く男。 実在する伝説で生きている唯一の存在・・・。楽しみでしょうがないな」
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