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同じ繰り返しの筈だった景色の中の幻のような逃げ水の向こう側に黒塗りの車、
横には人形と見紛うほどに美しい人が立っている。
景色とは対照的にどこか涼しげ冷たくも感じ取れるその異様な姿は、とてもこの世のものとは思えない。
吸い寄せられるかのように螢は近づいて行った。
「螢様、お迎えに参りました」
暑さをまるで無視した黒い服の男が立っている。
目元は涼しげだが、瞳の奥には吸い寄せられるほどの闇がある。
螢は闇に吸い寄せられるように白い手袋をした、その男の手を取った。
瞬間、世界が歪んだように感じた。
幻想のようなその男の存在は、逃げ水と同じように消えてしまうのではないかと思うほどに、
その場所には似合わないものだった。
歪んだ世界に引きずり込まれるかのように、螢の意識は小さく闇の中へ消えていった。
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