48人が本棚に入れています
本棚に追加
夜が、怖かった。
自分の名が恐ろしかった。
「壜、壜、壜………」
九つの冷夜は花を探し回っていた。
花はピンク色の煌めきで冷夜はそれが好きだった。
周りがえらく騒がしい。冷夜は顔をあげた。
「……悲鳴?」
そんな、まさか。
近くのドアが勢いよく開いた。冷夜の肩がびくり、と震える。
血にまみれた指先がドアからにゅう、と出た。
「――ひっ」
ひくり、と息を吸い込む。
指先はまた、ドアに隠れた。
無意識に首にかかる壜のコルクに伸ばしかけて、冷夜は自制した。
一族の者かもしれない。静を使っての攻撃はやめた方がいい。
それより、あの指が頭について離れない。
冷夜は恐怖を晴らしたい思いと単なる好奇心でドアに近付いた。
ドアに赤黒く付着するものは血だ、と冷夜は気付き更なる恐怖が襲う。
「箜兄………」
半開きのドアを引いて、廊下を覗いた。
そこには。
「………――っ、く、」
冷夜は、声が出なかった。
短刀を握り締め、返り血を浴びて冷夜に背を向けた人物。
よく、知っている。
黒髪に赤が混じって、妖のようだ、と唐突に思った。
だって、こんな所業をするのは冷夜に取って『鬼』だったから。
最初のコメントを投稿しよう!