神の御声は渡るのか、渡らないか

8/15
前へ
/260ページ
次へ
夜が、怖かった。 自分の名が恐ろしかった。 「壜、壜、壜………」 九つの冷夜は花を探し回っていた。 花はピンク色の煌めきで冷夜はそれが好きだった。 周りがえらく騒がしい。冷夜は顔をあげた。 「……悲鳴?」 そんな、まさか。 近くのドアが勢いよく開いた。冷夜の肩がびくり、と震える。 血にまみれた指先がドアからにゅう、と出た。 「――ひっ」 ひくり、と息を吸い込む。 指先はまた、ドアに隠れた。 無意識に首にかかる壜のコルクに伸ばしかけて、冷夜は自制した。 一族の者かもしれない。静を使っての攻撃はやめた方がいい。 それより、あの指が頭について離れない。 冷夜は恐怖を晴らしたい思いと単なる好奇心でドアに近付いた。 ドアに赤黒く付着するものは血だ、と冷夜は気付き更なる恐怖が襲う。 「箜兄………」 半開きのドアを引いて、廊下を覗いた。 そこには。 「………――っ、く、」 冷夜は、声が出なかった。 短刀を握り締め、返り血を浴びて冷夜に背を向けた人物。 よく、知っている。 黒髪に赤が混じって、妖のようだ、と唐突に思った。 だって、こんな所業をするのは冷夜に取って『鬼』だったから。
/260ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加