神の御声は渡るのか、渡らないか

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険しい顔つきの猛者。 心ここにあらずといった体の箜。 シルヴィアは無言で箜を蹴る。 「いっ」 箜が唸る。 「只でさえぼけぼけのあなたが何をしているんですか」 さらっ、とシルヴィアが暴言を吐く。箜は物言いたげにシルヴィアを睨む。 「前半はともかく、後半は僕が言いたかった」 シルヴィアが視線を逸らした。 銀ともとれる白髪と水が多めの紫水晶の瞳。 猛者は思わず思った。 このシルヴィアとやら、化け物のような容姿だな……。 「僕、とはしもべの意味ですよ。元々自分をへりくだっていう一人称です、あなたには合いません」 そっちかい。 心中思わず突っ込む猛者――いや、螢燈。 「僕はシルヴィアとは違って殊勝な男なんだよ」 いでっ、と箜がまた唸る。 シルヴィアが艶々して尖ったサンダルで箜を蹴ったのだ。 ギリシャ神話に出てきそうな紐のサンダル。 螢燈は呆気にとられていた。 自分等を滅亡寸前にまで追い込んだ剣士が蹴られて唸り敗北を喫している。見知らぬ女が涼しい顔して足を庇う箜を見下している。……何だこれは。 「箜」 「何、我が儘シルヴィ――ぐっ」 蹴られた箜が恨めしげにシルヴィアを睨む。 「もうすぐ妹様のお迎えの時間です」
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