神託を卸すべき神はいるのか、いないか

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彼女はさ迷っていた。 息子が謀反(むほん)まがいの事を企て実行したのだ。 勿論、母の筈の彼女も狙われた。 しかし、彼女には優しい守護妖がいた。 息子に殺されかけたその時、普段は出てこない守護妖が出たのだ。 銀の毛並みが美しい、琥珀の瞳の狼。 名を、淡(たん)といった狼であった。 母の腹を刺しながらも追い掛けてきた息子に淡は立ちはだかった。 『ゆくのです』 敬虔(けいけん)な態度で恭しく(うやうやしく)言った淡は白銀の尻尾を振った。 『羽旭様は生きて欲しいのです。何よりも私の為に』 嫌だ、とぐちゃぐちゃに泣く彼女に淡はいい募る。 『泣いてはいけません。あぁ、羽旭様は相変わらずお優しい』 大好きな小さい頃からの友達のままだ――― 淡はやがて、目を細めた。 『羽旭様の支えがやって来られました――――。はやく、しないと』 振り返った羽旭は煤だらけで歩いてくる遙斗を見つけた。 「何で、いるの」 また放浪していたんじゃ、ないの。 遙斗が煤だらけの顔で笑った。 「羽旭がわぁわぁ泣く夢を見て、嫌な予感がした」 焦った様子の狼が鼻面を羽旭に押し付けた。 『さぁ、早く。息子殿が迫っております』
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