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彼女が後ろ髪を引かれるように狼を見つめた。
平淡な声で告げる。
「ずっと、一緒。………嘘だった?」
淡が首を振った。
『まさか。この淡はずっと一緒でございます。ただ、先に行って待っているだけです』
妖にも黄泉ってあるんだ。まさか、そんな。
断末魔の悲鳴の中で羽旭は狼を見詰めていた。
淡もしっかり見詰め返す。
「……淡は無理ばかりしすぎ」
淡はうなだれた。
『すみません』
身体を翻して(ひるがえして)遙斗が彼女の手を引く。
引っ張られても彼女は狼を見詰めていた。
約束、したのに。
淡はいつも大事な事を過って(あやまって)しまう。
例えば消費期限切れのケーキ。泣いて怒った。
例えば遊園地のクーポン。常人に見えない妖である淡が取ったから大騒ぎだったなあ。
あぁ、何だ。こうして見れば。
まだまだ短い付き合いじゃないか――――――
泪(なみだ)で視界がぼやける。
遙斗が叫ぶ。
―――淡、危ない。
優しい狼の姿が炎に包まれた。
約束は守るから約束何だよ。
彼女が低く、呟いた。
けれども、これは始まりに過ぎなくて。
これから彼女が思う全てが奪われるのだ。
幼気(いたいけ)な彼女はまだ、知らない。
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