神託を卸すべき神はいるのか、いないか

4/10
48人が本棚に入れています
本棚に追加
/260ページ
彼女が後ろ髪を引かれるように狼を見つめた。 平淡な声で告げる。 「ずっと、一緒。………嘘だった?」 淡が首を振った。 『まさか。この淡はずっと一緒でございます。ただ、先に行って待っているだけです』 妖にも黄泉ってあるんだ。まさか、そんな。 断末魔の悲鳴の中で羽旭は狼を見詰めていた。 淡もしっかり見詰め返す。 「……淡は無理ばかりしすぎ」 淡はうなだれた。 『すみません』 身体を翻して(ひるがえして)遙斗が彼女の手を引く。 引っ張られても彼女は狼を見詰めていた。 約束、したのに。 淡はいつも大事な事を過って(あやまって)しまう。 例えば消費期限切れのケーキ。泣いて怒った。 例えば遊園地のクーポン。常人に見えない妖である淡が取ったから大騒ぎだったなあ。 あぁ、何だ。こうして見れば。 まだまだ短い付き合いじゃないか―――――― 泪(なみだ)で視界がぼやける。 遙斗が叫ぶ。 ―――淡、危ない。 優しい狼の姿が炎に包まれた。 約束は守るから約束何だよ。 彼女が低く、呟いた。 けれども、これは始まりに過ぎなくて。 これから彼女が思う全てが奪われるのだ。 幼気(いたいけ)な彼女はまだ、知らない。
/260ページ

最初のコメントを投稿しよう!