神託を卸すべき神はいるのか、いないか

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まずいな。 遙斗が呟いた。 箜が扱っている破魔という妖を殺る為の一族の血は、易々(やすやす)と淡を殺した。 彼女はずっと泣いていた。 遙斗が手を引きながら、ぶつぶつと呟く。 「箜は螢燈の力も上乗せしているからなぁ。よくて相討ち―――もないか」 後ろを振り向く。 滅多に出ない天才、羽旭。 箜のあの力は彼女がいたからだろう。 閃くものがあった。 しかし、それは彼女をもっと泣かせてしまう。 遙斗はどうしても彼女に生きて欲しかった。 『怪我、してるのか』 『あなたよりは軽傷』 怪我をしても強がる羽旭を連れて帰ったあの日から。 遙斗は自分の我が儘(わがまま)を貫きたかった。 何故なら。 彼の能力は役に立たないものだったから。 ――しかし、今は役に立つ。 「羽旭。どうしても、生きていて欲しい」 羽旭が顔をあげた。 「羽旭が生きているだけで、何も怖くなかった」 彼女が傍らで微笑む。 それだけで幸せになってしまうのは何故だろうか。 「破魔が滅亡しても時間が経ったら自然に笑えた」 それは献身的に支えた、羽旭のお陰だ。 「この能力は役に立たないけれど………今は役に立つ」 羽旭が目を見張る。 「使っちゃだめ」
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