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彼の能力は―――自分の霊力を分け与える。
妖を使う螢燈では霊力を使わない。
しかし、相手は破魔の箜だ。
二人で戦ったらどちらかが倒れるだろう。
それは壜を持たない羽旭の可能性が高い。
自らの掌(てのひら)に霊力を宿した遙斗は羽旭の掌を取る。
明らかに強張る(こわばる)羽旭に遙斗は言い含めるように言った。
「これは俺の破魔として全ての霊力が入ってる。羽旭、生きてくれ」
羽旭が頭を振った。
「それって、遙斗は死んじゃうでしょ。嫌」
遙斗は静かに笑った。
狼が育てた優しい彼女なら言うと思った。
「大丈夫。淡のいる所に行くだけだ。羽旭を待ってるから」
羽旭から一筋の泪が零れた(こぼれた)。
嫌だ、というように羽旭が青ざめた顔でまた頭を振る。
「遙斗、何で――っ!」
その時、遙斗が素早く掌を引き抜いた。
霊力が炎となり羽旭の中に融ける(とける)。
少しずつ、命の灯火が消えていく。
羽旭を寄り掛かるように抱き締めた遙斗は瞳を閉じた。
愛する者の命の炎を纏う(まとう)羽旭は大粒の泪を流していた。
泪があふれて、けれども彼女は止める術を持たない。
静かに命を終える遙斗は幸せそうな顔をしていた。
「温かいなぁ………」
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