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冷夜は言葉に詰まる。
そういえば、困っていた所だったのだ。
颯がハンドルを回しながらしれっ、と冷夜の文句を流す。
「婚約者だし丁度いい」
「何が丁度いいんですか!?」
結婚の事前練習だろうか。
前方を凝視(ぎょうし)する颯が首元の壜(びん)を見せる。
「あ、トラックが嫌なら乖(かい)の風で走るという、マッハ速度体験ができるよ」
乖とは颯の守護妖で礼儀正しい、冷夜と同い年位の少年の姿をもつ。
にこにこと微笑みながら聞くので非常に話しやすい。聞き上手である。
「うっ…乖には会いたいけど、マッハは嫌だ……」
微笑みながら強風を吹かせるのが乖で、冷夜はかつて全力で逃げた記憶がある。
ははっ、と颯が笑う。
「乖は善意だから仲良くしてあげて、な」
素直に頷く冷夜。
トラックが止まり、引っ越し屋が到着っす―、とフレッシュな声をかける。
礼を述べてから、冷夜はトラックから降りた。
「豪邸…………」
豪邸全てが金ピカで屋根には何故か金のシャチホコ。
家主の趣味を問いたい冷夜である。
冷夜のシャチホコに向く視線に颯が苦笑する。
「金運アップの為……らしいよ」
スピリチュアルアイテムを屋根に飾るのは相当な度胸だ。
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