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「本当に私が住んでいいんですか?」
冷夜が確かめた。
「どうして?」
不思議そうに颯が訊くと、冷夜は表情を固くした。
今まで羽旭と住んでいた小さな家が帰る場所だった。
もう、帰る場所は取り壊されてぼろぼろの板の山になった。
急に帰る場所が無くなる感覚は何とも言えず、ただ。
『冷たい夜』の後、一人で破魔に入り箜兄も淋しかった(さびしかった)のだろうか、と思った。
「もう、淋しい思いはしたくないんです」
颯は彼女の真意を悟ったが、何も言わず豪邸を見詰めた。
沈黙が流れる。
やがて、静かに颯が口を開いた。
「帰る場所なんだ。ずっとだよ」
はっ、と顔をあげる冷夜。
その瞳は泣きそうに緩み、揺れていて胸が締め付けられた。
そういえば、羽旭の葬式にも冷夜は泪(なみだ)を見せなかった。
ただの負けず嫌いか、と思ったが。
ずっと、堪えていたのだ。
そろそろ、と手を伸ばして冷夜を抱き寄せる。
泪を溢れさせながら抱き付く冷夜は嗚咽(おえつ)を漏らし始めた。
冷夜の颯の服を掴んで泣く様は子供のようだった。
颯が言い含める。それから鈍感で純粋な婚約者に気付かれないように、愛を誓う。
「淋しがらなくていい。すぐにかけつけるから」
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