神の導を示す者はいるのか、いないか

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どことなく酒の匂い。 口紅の独特の匂いが強くなる。 日向 箜は椅子に腰掛け、机に頬杖をつきながら唸っていた。 隣に澄ました顔で書類整理を行うシルヴィア・ロ・ミシェルがペンの先で箜の頬を突っつく。 「……何」 唸るように言葉を発した箜にシルヴィアは無表情で答える。 「なんとなく。妹様に会った後、沈んでいるものですから」 「…………………」 唸っていた理由をさらり、と言われて言葉に詰まる。 シルヴィアが油性マッキーを取り出した。 キャップをきゅぽっ、と取る。 「どうするつもり?」 この後を予想する箜が半眼(はんがん)でマッキーを構えるシルヴィアに言う。 「勿論(もちろん)額に肉と書きます」 予想通りの答えに箜は頬杖で身体を支える。 「………そういうのは僕が寝てからやるんじゃないのか」 シルヴィアがキャップを閉めた。 「では、ご希望通りに」 「希望してない……」 相変わらずの噛み合わない会話に挫けそうになる箜。 シルヴィアは書類整理を終えると湯呑みや茶筒を出す。 二人分の緑茶を淹れて一方を箜に渡す。 「名はシルヴィアなのに緑茶か」 「私は二つ名に廸(みち)もありますが」 「………あっそう」 「勘違いをなさらないで下さい」
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