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―★―
ゲンゾウさんは感動していました。これは奇跡だ、と。
女の子が、立ち止まったばかりでなく、自分からこっちに来てくれたのです。随分と怯えた様子ではあるものの。
女の子が近くまで来て、ゲンゾウさんは自分が女の子を見下ろしていることに気づきました。
ああ、これじゃ怖いに決まってる。
逃げられませんように、と祈りながら、ゲンゾウさんはゆっくりとしゃがみました。そして、女の子が抱くるぅに手を伸ばします。
女の子は、より一層怯えてしまったようで、きつくきつく目を瞑ってしまいました。しかし、逃げることはしませんでした。
ゲンゾウさんは、女の子に触れないよう気をつけながら、るぅを撫でました。
るぅの温もり。毛の感触。
それらはやはり、ゲンゾウさんには最高の癒しでした。
撫でながら再び女の子に目をやると、女の子はきょとんとした顔でこちらを見ていました。その顔には、さっきまでの恐れは見られませんでした。
ありがとう、と言おうとして、ゲンゾウさんは自分の口角が自然と上がるのを感じました。
ゲンゾウさんの「笑顔」に、きょとんとしていた女の子も、にこぉっと笑ってくれました。
ゲンゾウさんは、妻を亡くしてから、ずっと独りで生きてきました。笑うのも、誰かと笑いあうのも、本当に久しぶりでした。
るぅの温もりと女の子の笑顔が、ゲンゾウさんの心を照らしたのでした。
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