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―★―
「――ぅ!」
ゲンゾウさんがるぅの喉元をわしゃわしゃと撫でていると、どこからか子どもがなにか叫んでいる声が聞こえました。
ぴくん、とるぅの耳が動きます。
そういえば最近、隣に若い夫婦とちいさい女の子が越してきたなあ。と、ゲンゾウさんは思い出しました。
いつだったか、たまたまその女の子と母親が出かけるところに出くわしたときのこと。
母親に会釈され、会釈を返すついでになにげなく女の子に目をやりました。すると、ゲンゾウさんと女の子はばっちり目が合ってしまったのです。
ゲンゾウさんと目があった瞬間、女の子の顔は泣き出しそうに歪み、母親の服の裾をぎゅっと掴みました。
そういうことは初めてではありませんでした。ゲンゾウさんは子どもに好かれにくい質のようなのです。とりわけ、幼い子どもには。決して子どもが嫌いなわけではないのに、怖がられてしまうのでした。
――あなたは目付きが悪いんですよ。
妻にはよくそう言われたものでした。クスクスと笑いながら子どもとの仲介役を担ってくれた妻は、一年前に病気で他界してしまいました。
ゲンゾウさんがふと妻のことを思い出していると、もう一度子どもの叫び声が聞こえてきました。こころなしか、さっきよりもはっきりと。
「るぅ!」
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