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だけど、その瞬間。
学生はさしていたビニール傘を放り投げて、
『大丈夫。俺がとってあげるから。』
にっこり微笑み、それだけ言って、木の上に登りだした。
自分がずぶ濡れになっちゃうのに。
制服、汚れちゃうのに。
それこれ構わず学生はすぐに木に登り、水色の風船を取って、さっと木から降りた。
そして小さな男の子に風船を渡し、今まで泣いていたのにいつしか泣き顔は消えていて笑顔になっていた。
男の子の隣に居たお母さんらしき人も、学生にペコペコ頭を下げながら男の子と手を繋ぎ、帰っていった。
学生は、案の定ずぶ濡れになっちゃって。
なのに、終始笑顔だった。
その状況をただ、見つめることしかできなかった私。
自分も傘ないのに突っ立って、ただただ彼を見ていた。
この時私は
見知らぬ彼に恋をしてしまっていたー…。
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