第壱夜 御曹司。

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「こちらが雅則様のお部屋です」 「おっ、凄い!籠とか頼んでたもんちゃんとおいてある!さっすが父さんだねぇ」 俺がドアを開けるなり雅則様は部屋に入りぐるりと辺りを見回しては歓声を上げて満足そうに笑顔を浮かべ興味ありげに本棚にある本をぱらぱらとめくる。 しかしどうやら、学問の本には興味はないらしく手に取っているのはもっぱら動物関係の本だった。俺も雅則様の今までの成績は見てきたがお世辞にも頭がいいとは言えないようだ。 「勉強はお嫌いなんですか?」 「はは、やっぱりはなちゃんにはばれてんのか…嫌いっていうか楽しくないから身が入らないんだよね、それに頑張っても頑張っても全然いい点数とれないの!…才能ないんだと思う、勉強の」 「そうなんですか…しかし、大学に行かれている以上勉強はしなければいけないので俺が家庭教師、やらせてもらいます」 「ほんと!?ふふ、はなちゃんに教えてもらったらできるようになりそう」 コロコロと面白いくらいに表情の変わる雅則様の姿に何だかこちらまで気分が高揚してくるような気がしてこれがこの人の一番の魅力で、友達も多いんだろうなと考えて雅則様の持ってきた荷物をベッドの近くに置いているとこちらを何やらじっと見つめている。 「…どうか、なさいましたか?」 「いや、はなちゃんってさ元々執事さんじゃないでしょ?」 「えっ…」 「やっぱりそうだ!分かるよ、言葉遣いが拙いんだもん!年齢も俺と同じくらいなんだからさ、俺の前では普段通りでいいよ?窮屈でしょ、ずっと使い慣れない言葉使ってんの!」 「しかし…俺は雅則様たちに仕える身ですし、そんな失礼なことできません」 「じゃあ、じゃあ!俺の命令ってことで!俺嫌なんだよね、距離とかあんの!だから、俺と二人の時は普段のはなちゃんでいて?…だめかなぁ」 自然体で本当にそうして欲しいように話す雅則様を見て、主人の命令に逆らってはいけないのは勿論だけどそんなことを抜きにして自然と俺も笑みが零れてこくりと頷いた。 「分かった…えーっと、なんて呼べばいいかな?」 「んとねぇー…翠川ちゃん、とか?」 「じゃあ、二人の時は翠川ちゃんって呼ぶ。よろしくね?」 「うんっ!」 .
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