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人生の分岐点というものは様々なところに存在していて、
もし、
あの時、父親が家から居なくならなければ
俺は今頃、父親と一緒に酒でも飲んでいたのだろうかとか
もっとマシな生活をしていたのだろうかとか
もし、
高校卒業して大学に行っていれば
自分の好きなものをもっと深く知れたのだろうかとか
就活ももう少し楽にできたのだろうかとか
もし、
俺があの時、バイトなんかに行かずに家にいれば
母親はいなくならなかったのかとか
こんな無茶苦茶な手紙を授かることもなかったのだろうかとか
色々考えることはあるけれど、
やっぱり全部含めて俺の人生だから、俺はそれを全て受け入れなきゃいけないんだって自分に言い聞かせて生きてる。
「でも、今回はちょっとぶっ飛びすぎぃいいいいいいい!!!」
ここは公園かというくらいの庭を抜けて、その中心にある豪勢な洋館を目の前にして
手荷物のバッグを抱えながら俺が発した怒声にも似た悲鳴は誰にも届くことなく、空しく広大な敷地に吸収されていった。
「貴方様が、紅花翔太さんですね?」
…こともなかった。
俺の叫び声をしっかりと聞いていた人物が一人、いたらしく彼は庭の端からこちらに向かって歩いてきた。銀縁のメガネを指先で上げて俺を見つめている彼の恰好はまさに絵に描いたような、漫画に出てくるような執事の恰好で。
俺が物珍しそうに彼の恰好を上から下まで眺めているのを見て、彼は少し困惑した表情を浮かべながら俺の目の前で歩みを止める。
そして俺が抱えていたバッグを手に取って目の前にある大きな扉を開けて俺を見てにこりと笑う。
「お待ちしておりました、今日からここが貴方様の家であり、働く場所でございます。戸惑うことも多いでしょうが、私が全力でサポート致します。なので誠心誠意を尽くしてこちらに住まわれている、4人のご子息にお仕えくださいませ。」
さらりと流れるような綺麗な日本語に圧倒されながらもその言葉も笑みも俺にとってはなんだか気持ちを暗くするだけのもので上手く笑えずに口元を引きつらせる。
そう、俺は今日からここで執事として働くことになったのだ。…強制的に、もはや身売りと言っても過言ではないくらいの方法で。
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