第零夜 執事。

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話は数日前にさかのぼる その日、俺はバイトを終わらせて近くの激安スーパーにて主婦たちと激戦を繰り広げたのちに家へと帰宅したところ昨日まであったはずの家財道具が一切なくなっていた。 それだけではなく、母親の姿もなくて俺の洋服や最低限生活できるものが詰め込まれた旅行用のバッグと一枚の紙のみが部屋にあった。 何がなんだか分からずに俺は今しがた買ってきたもやしと卵と合挽肉が入ったスーパーの袋を足元に置いて何らかの手がかりが書いてあるのであろう、紙へと手を伸ばしてそれへ視線を巡らせる。 『翔太へ すいません、貴方には黙っていたけれどお父さんの借金の代理人が私たちになっていたの 今までこんなこと言ったら貴方は高校にもいかないで働くと言い出しそうだったから、黙っていました 貴方にはせめて高校を卒業して欲しかった、こんな苦しい生活でも一生懸命に勉強をして母さんに沢山親孝行をして笑っている貴方を見て私は幸せでした でも、お母さんもう限界です ここのアパートも解約して家財道具も全部売ってお母さんはおばさんの田舎で農家にいそしむことにしました こんな母親を許してください、貴方は知り合いの人に頼んで住み込みで働かせてもらうことにしました。安心してください、借金はお母さんが責任を持って返済するからね きっとキツイ仕事だと思う、でも頑張って貴方ならできると信じています 追伸:ごめんね!貴方みたいな品行方正な子って結構いい値段だったの☆てへぺろ★』 全て読み終わった時には俺の手の震えは止まらなくなっていた。 勿論、感動したからではない、いや途中までは少し感動していた。割と、身勝手な母親であったけれど、こんなに俺を愛してくれていたんだって、感動してたさ! 母親の最後の一言(しかもここだけしっかり手書き)がなければ… 破り捨てたい衝動に駆られながらも俺を引き取ってくれる(いや、ある意味俺の出稼ぎ先)の住所が書いてあるのに気付いて、それを手帳に写してからふっとため息を一つついた後に 俺は思いきりその紙を破り捨ててやった。 しかし、どれだけ身勝手な行動でもここに書いてあることは事実だろうし、俺にはもうどうすることもできないわけで やってきた働き口、というのがこのどでかい洋館、というわけだ。 .
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