第一章:現実の外側、非現実の内側

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 とりあえず今日も叫ぶ。叫ぶ内容なんてどうでもいい。  大学前の坂がきつ過ぎるとか、隣に住んでいる奴が鬱陶しいとか。その日を生きて感じたものを、こっちの世界で解消する。そのお陰か、僕か今のところストレスとは無縁の生活を送れている、と思う。  そういうのは自分の知らない間に溜まっているらしいからよく判らない。それでも、感じる程のストレスがないのは良いことだろう。  ……しかし自分で言ってはみたものの、本当に夢の中なんかでもストレスを解消できるのだろうか。  叫んでいた人語らしき何かを歌に昇華させる。相変わらず内容は滅茶苦茶だけど、そんなものどうだってよかった。  適当に聞いたことのあるメロディーを叫びに付加しているだけだけど、これが思いの外、気持ちいいのだ。こういう場所でしか歌を歌えないのもどうかと思うが。  どれくらいの間叫び続けていたかは分からないけど、満足したところで口を開けたまま発声だけを止める。  喉は痛まない。かつんと上下の歯をぶつけるように閉じ、空っぽの口の中にある何かを噛み砕く。  痛みがないのは良いことだけど、ここまで何も感じないと妙な気分だ。これだけはいくら夢の中にいようと慣れそうにない。  風でばさばさと捲り上がる髪を片手で押さえながら、ぼんやりと空を眺める。
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