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――もうそろそろ、あの子が来るはずだ。
あれだけ叫んだにも関わらず一切の疲労を蓄積していない身体で砂の上に立ち、脚に体重を掛ける。裸足の足はゆっくりと砂の中に沈んでいき、足首の辺りまで沈んだところで止まった。
脚がこんな風に固定されていると何故だか落ち着く。普段から、地に脚の着いていない生活を送っているつもりはないんだけど。
埋まった足首をしばらく見ていると、前方の方からエンジン音が響いてきた。待ち人の到着のようだ。
目線を上げる。すると遠くに見える黒い点のような影はどんどん僕のほうに近づいてきて、やがてその姿をはっきりと目で捉えられるまでになる。
砂漠の砂を巻き上げ、法定速度を明らかに超過して進む原付。
それだけでも十分過ぎるくらいに異様な光景だけど、それを操っているのが僕と同じか少し年下くらいの浴衣を着た女の子だというのだから、余計に異彩を放っている。
原付は近づくにつれゆっくりと減速していき、僕の隣に来たところで停車した。
「やっほー」
少女は原付から降りると、亜麻色の髪を手櫛で整えながら笑みを浮かべる。
対する僕はそれに、「……やっほー」と控えめに応えた。
待ち人とは言ったものの、僕は正直、彼女との距離を掴み損ねていた。
なぜなら彼女が一体『何者』なのか、それを僕自身がほとんど把握できていないから。
彼女は突然この世界に現れ、それ以降は僕が夢を見る度にこうして原付でやって来るのだ。
とりあえず今は、僕の世界に発生してしまったエラーというか、異分子のような存在だと彼女のことを認識している。
「どう? そろそろ『こっち』には慣れた?」
彼女はけんけんをするようにして僕に近づき、にやにやとした笑みを浮かべながらそう訊ねてきた。
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