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「一人で行ってきなよ」
「えー、友達と行くから楽しいんじゃない」
なんだよそれ、と僕は彼女の手を振り払い頭を抱える。僕達はいつの間に友達になったのだ、と。
「もうっ、砂君は本当につまらない男だねっ。『冒険』というワードを聞けば内容に関わらず一歩踏み出す勇気を持っているのが、本当の男ってもんだよ」
「それは勇気を持っているんじゃなくて、単に危機感や判断力が欠落しているだけだ」
思慮深い人間よりは思考回路がショートしている人間のほうが、一歩目を踏み出すのは早いに決まっている。
僕の言葉を簡単に無視して、彼女は話を進める。
「砂君は興味ないの? “他人の夢に入る”ということに」
「そりゃあ……興味がないと言えば嘘になるけど」
興味はある。当たり前だ。『他人の夢に入る』だなんて、そんなファンタジーめいたことに興味を持たないはずがない。
彼女の言う『冒険』とはつまり、彼女が今まさに僕の夢に入ってきているように、他人の夢の中に無断で侵入することを言うらしい。
他人の夢に入るだなんて本当に無茶苦茶な話だが、これまでに何度も受けた彼女の講義によれば、別になんら難しいことではないそうだ。
彼女曰わく、人と人の夢というのは現実世界でいうところの、国と国とのように繋がっているそうだ。
それぞれの夢には国盗りなんかを題材にしたテレビゲームで例えるのなら、『国境線』のようなものがあり、それが自身と他人との夢を区別している。
普通に夢を見ている分にはまずその線を越えることはないのだが、そこには例外が存在する。
明晰夢を見ている人間。自分が夢の中にいることを自覚している人間。
つまり僕や彼女のことだ。
僕達はここが夢の中だということを理解していて、自分の見ている夢の『終わり』がどこにあるかを知っている。……いや、知っているというより、目視することで認識することができている。
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