第一章:現実の外側、非現実の内側

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 彼女が本当に存在する人物なのか? 実は、彼女は僕の妄想によって生み出された少女なのではないか? そうして僕が生みだした少女が『人と人の夢は繋がっている』なんて可笑しなことを言っているのではないか。  そうやって次々と疑問は沸き、僕の中の猜疑心はより膨らみ、終いには自分の深層心理に潜むある種の異常性に怯える。  この少女がもし自分の妄想の産物だとすればなんというか……ドン引きだ。  自分の作りだしたものということは、無意識のうちとはいえ、人と人との夢がなんたらなんてことを知らぬ間に考えているという可能性がある。僕の妄想が生んだ少女が痛い子ということは、イコール創造主である僕自身も痛い子認定されてしまう可能性を孕んでいるのだ。  僕はそれがとてつもなく嫌だった。現実で自分が持ち合わせていないものを夢の中で創りだし、その非生産的な行為に満足する。  少なくとも、そんな自分は夢の中であろうと見たくない。  だから僕は『冒険しよう』と勝手に夢の中に現れて、僕を別の世界に引きずり出そうとする少女と距離を取っていた。  出会ってから、ずっと。  それでも彼女は、懲りずに毎日やってくるのだけど。 「ねーねー、引き籠ってないで外に出ようよー」 「砂漠にいるってことは一応、外に出てるんじゃないか?」 「ちがーう! 自分の夢を出て、誰か人様の夢に入り込もうって話だよ。自分の殻を破ろうぜ、少年」 「嫌だ。脱皮するには時期が合わない」 「時期なんか関係ないよ! あと、殻を破るのと脱皮は違うからね?」 「知ってるか? 脱皮したばかりのゴキブリって真っ白なんだぜ。こいつがさ、よく目にする黒い奴よりも断然気持ち悪いんだ」 「なんで今ゴキブリの話をするの!?」  よほど嫌いなのか、わーわーと騒ぎながら僕の胸の辺りを叩く。当然、夢の中だから痛みはない。  うーん。やはりこういうのが一番、自分が夢を見ていると実感できるな。
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