第一章:現実の外側、非現実の内側

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――淀桐八尋(よどきり やひろ)――  01  目を閉じると、雨の音がより鮮明になる。叩き付けるような暴力さを伴う雨だ。強い風も吹いていて、窓が不規則に揺れて音を立てていた。  傘は持ってきているけど、この様子では大して役に立ちそうにない。  ぼんやりと雨音に耳を澄ましつつ宙を見つめ、レポートを書き続けることで熱を持った脳を冷ます。欠伸をして瞼を閉じようとする眠気と一戦を交え、ノートパソコンからUSBメモリを取り外した。  二時三十分。卓上に置いていた携帯電話を開くと、煌々とした明かりの中にそう表示されていた。  十四時三十分ではなく、二時三十分。つまり深夜。良い子は眠っていなければならない時間である。  僕は基本的に夜更かしをしないからか、こんな時間まで起きているとなんとも不思議な気分になる。  知らない町にまで遠出しているような、ふわふわした感覚が芽生える。……ふわふわしているのは単に眠いからかもしれない。  ドビュッシーの『亜麻色の髪の乙女』が流れている音楽プレイヤーを止め、パソコンの電源を落とす。それから大きく伸びをして、冷めて濁ったブラックコーヒーを一口。あまりの苦さに思いきり顔を顰めてしまった。淹れてくれた栞に対して申し訳ない気持ちになる。しかしそのおかげで、多少は眠気が取れた。
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