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「うん。レポートを明日……というか今日の朝一番に教授に渡してくるつもりだから」
「泊まっていかないの?」
「泊まっていいの?」
「当たり前だよ」
当たり前らしかった。
僕は大学近くの骨董アパートに住んでいるのだが、金銭的な理由でインターネット回線を引けていない。そのため大学からレポートの提出を求められ、それを書くためにインターネット上から情報を拾う必要がある場合はいつも、栞の住むマンションを訪れていた。
僕は、うーん、と腕を組んで首を捻る。
こんな時間まで居座らせてもらい、尚且つお泊りまでするというのは、些か図々しすぎる気がする。
窓へ歩み寄り、カーテンの隙間から外を見る。真っ暗で外の様子はあまり見えないが、見えずとも耳に入る雨音で外の様子は容易に想像できた。
ここからアパートまでの距離や、降っている雨、吹いている風、所持品であるノートパソコンや携帯のことを考える。
……まあ、恋人特権ということで。
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
「うん、虫歯になるくらい甘えるべきだよ」
変な答えが返ってきた。大分、睡魔に侵蝕されているようだ。
「じゃあ、コップを洗ってくるよ」
「水を入れておいてくれればいいよ。明日、わたしが洗っておくから」
「でも」
「いいから」
はい、と僕は素直に従う。早くしないと眠気から発生する不機嫌オーラに当てられかねない。
コップを流しに置いて水を張り、濡れた手をタオルで拭ってから寝室に向かう。栞は初めと同じように、正座をしてうとうとと船を漕いでいた。
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