第一章:現実の外側、非現実の内側

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 砂漠と聞けば多くの人は見渡す限り砂地が広がっている風景を想像するだろうが、実際のところはそういった所謂、砂砂漠というのは世界にある砂漠のうち二十パーセント程でしかないらしい。残り八十パーセントは礫砂漠や岩石砂漠、あとは……。 「……なんだっけ」  まだ種類はあった気がするが、どうしても思い出せなかった。先日、大学の教授が得意気に話していたのを耳にしていたはずなのに。  まあ、どうでもいいか。  変わり映えのしない、もう一つの世界。僕にとって、もう一つの現実。  夢に気付いた人間だけが得ることのできる、もう一つの居場所。  多分これは、明晰夢というやつなのだろう。  Lucid Dreaming。  睡眠中に見る夢のうち、自分でそれが夢だと自覚しながらも見続ける夢のことだ。  明晰夢の経験者は夢の状況を自分の想い通りに変化させれるというのだが、僕にはそれができた試しはない。まあ、全員が全員できると言っている訳ではないし、諦めるしかないのだろう。  ここでの生活は現実と大して変わらない。身体は動くし、声も出せる。痛覚などの感覚が皆無という大きな違いはあれど、気になるほどのものではない。  あー、と声を出す。  僕が夢の中に来るといつもやることだ。徐々に声量を上げていき、現実の方では絶対に出さないような大きな叫びを、誰かに届けるように腹の底から絞り出す。それが誰かに届いたことは、今のところない。……いや、一度だけあるか。恥ずかしいからあまり思い出したくないけど。
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