五章:たったひとつの冴えないやりかた

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――淀桐八尋――  19  動物殺し。  それは久しぶりに聴く言葉だった。  僕と栞が当時住んでいた町で一時、横行していた事件だ。犬や猫など、それがペットだろうが野良だろうが見境なく殺され、解体されるというものだった。  その事件は犯人が逮捕されることもなく、ある日を境にぱったりと止み、徐々に人々の記憶からも消えていった。  だから昨日、栞の口からその事件の名が出たことに驚いた。なにより、栞が高校最後の夏休み以降学校に来なかった理由が、動物殺しと関係していたことに。事件に巻き込まれたということは知っていたが、栞はその内容だけは頑なに教えてくれなかったから。  住んでいる町から電車で一時間、降りた駅からバスで十五分くらい揺られると、大きな病院に着いた。病院は何度も増築が繰り返されてきたのか、離れた所から全体を見ると色の違いが目立つ。新しい部分は綺麗な白色だが、古い部分は灰色に薄汚れていた。  栞の話によれば、浅川は事件以降この病院に入院しているらしい。一度も目を覚ますことなく、ずっと。 「浅川はここに入院しているんだな」  病院の廊下を歩きながら、隣で僕の手を痛いくらいに強く握って俯いている栞に尋ねた。  入院している病院のことは栞のマンションを出てから何度尋ねたか分からないが、他に何を話せばいいのかが思いつかない。会話に困った時に天気のことを話すような感覚だった。
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