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「やっぱり、ここにいた」
――少し肌寒い、三月のある日。いつものように学校の屋上に入り、寝転んで空を見上げていると、頭の方から、透き通るような、聞き慣れた声が響いてきた。
僕はそちらには顔を向けず、空に浮かぶ雲をぼんやりと眺めつつ呟く。
「今日はこないかと思った」
「HR終わるなり教室出ていくんだもの、気になるじゃない。ま、そうでなくても来たけど」
声の主はそう言いいながら近づいてきて、僕の顔を覗き込んできた。茶色がかった長い黒髪が太陽に反射されて少し眩しい。
「……見えないよ」
「失礼ね。私の顔が見えないの?」
「君じゃないってば」
「知ってる。ふふっ」
にっこりと笑うと、彼女はそのまま僕の横まで静かに歩み寄ってきた。
「ね、私も寝転んでいい?」
「別に好きにすればいいけど……珍しいね」
いつもは隣で体育座りをしているのに。
「……まあ、ね。君が見てる目線から、空を見てみたくなって」
彼女は少し照れ臭そうに頬をかくと、僕の隣にゆっくり腰を下ろしてそのまま脚を伸ばして横になる。
「制服が汚れるよ」
「いいのいいの。どうせ着るの最後だろうし」
「……そうだね」
彼女は僕の顔をしばらく眺めていたが、やがて僕とおなじように真っ直ぐ空を見上げ、ぼんやりと雲を眺めだした。
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