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その日は昨夜の土砂降りが嘘のように随分と空が晴れ渡っていて、涼しい春風がやさしく頬をすり抜けていた。
教室の、廊下側の後ろから3番目の席。俺は黒板に次から次へと並べられていく文字列を、特に意味も考えないままノートに書き写していく。
頭をからっぽにしたまま焦点の合わない視点をぐりぐりと動かすと、黒板の上にかけてある時計が目に入った。朝課外のあるこの時間、針はまだ8時前をさしている。
ふと、コツンとどこからか微かに音が聴こえた気がした。
なにか固いものが地面に打ち付けられたような、それは俺のゆるやかな眠気を醒ますには十分のものだった。違和感を覚えて再度耳を澄ましてみると、今度はザリッという砂を蹴るような音が一定間隔で数回、確かに聴こえた。
窓際のカーテンの隙間からはあたたかい日差しが入ってきていて、休み時間は窓に隣接しているベランダでうたた寝をしている生徒も多い。
ひとり、そのベランダを見つめる男子生徒がいた。教室のど真ん中の席である男子生徒は、ベランダの奥の方の一点を微動だにせず見つめている。確か彼は、駒場という名前だったはずだ。
つられてベランダに目を向けると、確かにそこから妙な音が鳴り続いているようだった。別の数人の生徒が音に気付いたのか、先程の俺と同じように教室内を見回している。
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