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「なんか変な音が聴こえない?」
隣の席の女子が、小声で不安げにそう言った。「そうだね」と曖昧な返事をして、ノートに視線を落とす。
柄にもなく授業に集中しておこうと顔をあげると、授業を中断している教師を目が合った。チョークを手に持ち、一部の生徒間が小さくざわついてきているのを見て、なにごとかと教師・大橋が口を開いたとき。
突如、教室内に機械音が響いた。最初は誰かの携帯電話が鳴っているのかと思ったのだけれど、どうやらそれは黒板横の壁に取り付けられている電話から鳴り響いているようだった。
この電話は全教室に取り付けられていて、職員室や他のクラス同士で緊急時等に備えて簡単に連絡が取れるようにと去年から実装されたものだ。耳障りな音を鳴らし続けるそれに大橋は戸惑いながら近付くと、受話器を取って「もしもし、大橋ですが」と応えた。
すると受話器から相手の言葉が聴こえたのか、最前列の電話付近に位置する席の生徒が数人、揃って大きなざわめきを見せた。
なにかトラブルがあったのかもしれないと、教室内は不安と期待の入り混じった喧騒に包まれて授業どころではない状態だ。ずっと居眠りをしていた窓際一番前の席の男子生徒が騒ぎに顔をしかめてようやく起き出した頃、大橋が受話器を置いて教卓の前に立つ。
「おい、いいか。ちょっと、落ち着いて聞いてくれ」
大橋は静まったクラス全体を見回すと、大きく深呼吸をして決心したように口を開いた。
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