001 それは自然に突然に

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俺は鞄から携帯と財布を引っ張り出して、ポケットに突っ込んだ。 どうしても性分から教室を出る前に机上を整頓しておきたくて、ノート類を閉じて筆記用具を掴む。ふいに蛍光ペンが手から滑り落ち、床に転がった。すぐに拾おうとしたけれど、先に女子生徒がそれを拾うとすっと俺に差し出してきた。 「手、震えてるわよ」 星川はそう言って、俺にペンを握らせるとあっさりと踵を返した。星川のトレードマークである、耳の後ろで結われたサイドテールが背中で揺らめく。俺はぎゅっと握りこぶしをつくって、大きく息を吐いた。 「前島くんも急いで」 再度、星川が少しだけこちらを振り返って言う。わかってる、と心の中だけで返事をしてからペンを机の上に置いた。 「おい、ちょっと。隣のクラス遅くねえ?」 後ろの机をどかして空いたスペースに列をつくって、たっぷり五分待った頃だ。ふいに柏がそう愚痴をこぼす。この学校はどの学年も各五クラスあり、俺たちのクラスは五組に位置している。大橋の話によれば隣の四組にいる教師からのなんらかの合図の後、合同で体育館に避難する筈だ。 しかし、それにしては廊下がやけに静かなのだ。先程までは他のクラスが避難を始めて若干ざわついている空気を感じたけれど、四組からの合図は依然ないまま。 「なによ、これくらい大丈夫だってば。様子を見てすぐに戻ってくるから」 「で、でもよう……」 突然の星川の大声に顔をあげると、星川が教室の扉に手をかけている姿と、恐らくそれを止めようとしている柏の姿が見えた。四組へ向かうつもりなのだろうか。 柏が圧され気味ではあるが、とりあえず星川も扉にかけていた腕をおろす。ふたりが口論しているのをぼうっと流し見しながら、携帯の電源を入れた。 完全に起動するのを待っていると、突如小さな悲鳴が背後から耳に届く。
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