001 それは自然に突然に

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扉の前に立っていた男子生徒の安否が気になったけれど、どれだけ目を凝らしてもそいつの姿は確認することができなかった。飛んでくる小さな瓦礫に混じって多くの砂埃が舞い、俺から視界を奪っていく。 ギィンとした耳鳴りに襲われ、目の前がちかちかと眩んだ。なにかが焦げたような、ツンとした異臭がして、たまらず両手で耳を塞いでしゃがみこむ。近くでクラスメイトが同じく蹲ってうええと嗚咽をもらすのが聞こえた。なにが起きたかがわからず、ただばくばくと激しくなる動悸に吐き気を覚える。 「おい、おまえ、前島!大丈夫か、早く逃げないと……」 名前を呼ばれて、黒いもやが浮かぶ視界に手を差し伸べられた。約数十分前、俺が奇妙な音に気付いたときにベランダの向こうをじっと見つめていた男子生徒。恐らくさっき「そこから離れろ」と叫んだ声の主でもあるのだろう、駒場だ。その駒場の頼もしい手を掴んで、立ちあがったとき。 「たしかにちょっと、やりすぎた感も否めないなあ」 のんびりとした声が耳鳴りに混じって届いた。パラパラと瓦礫が崩れる音。 ベランダのほうから、嫌な気配がする。 先に駒場が声のほうへ振り向くと、わかりやすく顔を歪めた。
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