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「すいませーん、お邪魔していいですか」
先程と同じ声が、今度はハッキリと聞こえた。他のクラスメイトも、その声に怯えたように固まって動けないでいる。
するとその瞬間、まるで魔法のように。
「……は?」
教室内が、いつもと変わらない姿へと変貌した。
ほんの数秒前までは瓦礫にまみれてぐちゃぐちゃだったのに、今ではなにもなかったかのようにベランダの扉も戻っているし、ふっ飛んでいた前のほうの机や椅子だって綺麗に列を成しているし、視界もクリアになっている。なんの寸分の狂いもなく、それは俺たちがよく見慣れている教室だ。
その綺麗すぎる教室の中に、鉄くさい匂いと床に染みついた赤黒い痕だけが未だに根強く、それはまるで放心する俺たちを現実へ繋ぎとめるかのような存在感を放っていた。吐瀉物の異臭で顔をしかめるたび、鈍りきった嗅覚がまだ正常だということに安堵する。
怪我をしたのだろうか、どこかで痛い、痛いと女子生徒が小さく呻く。
駒場がその声でハッと気を確かにすると、即座にそちらに移動したのを確認して、俺は教室を再度見回す。
そこで、視界の端に三人分の人影があるのに気付いた。そのシルエットはどう見てもこの学校の生徒というわけではなさそうだ。
いかにも今ここから入ってきましたよーという風に、三人のなかのひとりが開かれていたベランダの扉をご丁寧に後ろ手で閉める。
張り詰める空気のなか、一番先頭に立っていた男が教壇まで移動すると、人懐っこそうな笑顔を浮かべてこう言った。
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