第一話 黒い猫と黒い鬼

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「こっちだ」  自分が置かれた状況を忘れ、紫陽花を眺めていた翔大をシオンが呼ぶ。 慌ててそちらを振り向けば、彼らは既に屋敷の入り口で待っていた。 「中へどーぞ」  ふわりと笑うイオリの目が、油断ならない色を宿していたのに、翔大は気付かなかった。  長い廊下を、前をシオンに先導され、後ろからイオリにややせっつかれる形で翔大は歩いた。 中庭と接している廊下は妙に暗く、シオンが持つ燭台の灯りが壁に濃淡のついた影を作り出している。 と、そこで、 「……!?」  ようやっと翔大は、おかしなことに気付いた。  ――自分の影が、無い。 「にゃっ!」  ぴたり、と足を止めた翔大によそ見しながら歩いていたイオリがぶつかる。 先を歩いていたシオンがその声を聞いて、振り返る。 そして、あァ、と納得したように声をこぼした。 「何だ、やっぱり“そう”なんじゃねェか」 「ホントだー」  鼻を押さえて涙目になっていたイオリも、目の前の事実をあっさりと呑み込んだ。 混乱しているのは、翔大だけ。
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