174人が本棚に入れています
本棚に追加
耳元を吹き抜ける風が、ひゅるひゅると音を立てる。
それはとても冷たく、身を切るように青年に吹きつけた。
青年はこくり、と唾を呑み込んで、下を覗き見る。
遠くにコンクリートの地面と、大嫌いな奴らの頭が見えた。
青年は靴を脱ぎ、こちらを見ろとばかりに、彼らに向かって投げつける。
靴は重力と風の影響により、彼らの頭から少し離れた位置に落ちた。
彼らは音に気づいてそちらを向き、次に上を仰ぎ見る。
「…………?」
彼らの口がパクパクと動き、目が徐々に見開かれていくのを見て、青年は、
「お前らのせいだ!! この人殺し!!」
そう、叫んで。
金網から手を離し、身体を前に倒して、足元を強く蹴る。
それから僅か数秒後、地面に叩きつけられた青年は、人間ではなくなった。
飛び交う悲鳴と、コンクリートにじわじわと広がる赤色。
「あ~あ、こりゃ後始末大変だろうねー」
それら全てを踏みつけて、真白のフード付きコートに身を包んだ女が青年だったものに歩み寄っていった。
何故か彼女を止める者はおらず、女は青年だったものの傍らにしゃがみ込む。
そして、首を傾げた。
「およ? おっかしーなー、無いや……」
彼女の呟きは誰に聞かれることもなく、風に浚われていった。
最初のコメントを投稿しよう!