序文 鈍色の空と狂った世界

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 耳元を吹き抜ける風が、ひゅるひゅると音を立てる。 それはとても冷たく、身を切るように青年に吹きつけた。  青年はこくり、と唾を呑み込んで、下を覗き見る。 遠くにコンクリートの地面と、大嫌いな奴らの頭が見えた。 青年は靴を脱ぎ、こちらを見ろとばかりに、彼らに向かって投げつける。  靴は重力と風の影響により、彼らの頭から少し離れた位置に落ちた。 彼らは音に気づいてそちらを向き、次に上を仰ぎ見る。 「…………?」  彼らの口がパクパクと動き、目が徐々に見開かれていくのを見て、青年は、 「お前らのせいだ!! この人殺し!!」  そう、叫んで。  金網から手を離し、身体を前に倒して、足元を強く蹴る。  それから僅か数秒後、地面に叩きつけられた青年は、人間ではなくなった。  飛び交う悲鳴と、コンクリートにじわじわと広がる赤色。 「あ~あ、こりゃ後始末大変だろうねー」  それら全てを踏みつけて、真白のフード付きコートに身を包んだ女が青年だったものに歩み寄っていった。 何故か彼女を止める者はおらず、女は青年だったものの傍らにしゃがみ込む。  そして、首を傾げた。 「およ? おっかしーなー、無いや……」  彼女の呟きは誰に聞かれることもなく、風に浚われていった。
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