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『部屋からは出るなよ。もし外で何かに襲われても、オレは責任取らねェからな』
あぁ、こういうことだったのか、と翔大の中の冷静な部分が、存外早く解った答えを咀嚼した。
障子を叩く音はその間も止まない。
ラップ音など目ではない程にその音は恐怖を煽った。
「何、なんだよ……ッ」
先の科白を繰り返し、ぎゅうっと己の肩を抱く。
障子が何度も悲鳴を上げ、形を歪めていく。
「…………は」
じわり、視界が朧気に揺れた。
情けないなどという思考は、とうの昔に恐怖によって頭から追い出されていた。
「オイ、さっきからうるせェぞ。喚くんじゃねェ」
低くガラの悪い声が、翔大には仏の声にすら聞こえた。
同時に障子の向こうで動いた影が、片方倒れ伏す。
少し落ち着いた翔大は、恐る恐る障子に手をかけた。
「開けんじゃねェ!!」
焦った様子のシオンの声が耳に届いたと同時に、障子の隙間から鋭い爪がねじ込まれる。
「…………ッあ」
その切っ先が翔大を襲う寸前、何かが間に滑り込んだ。
刹那、思いっ切り目を閉じた翔大の頬に、液体が飛んできた。
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