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「――ちょっ、待っ」
漸く戻ってきた意識は、へその辺りに感じた浮遊感に再び持って行かれる。
――ついさっき、翔大が体感したばかりの感覚だ。
「――――ッ!!」
翔大は思いっ切り目を閉じたが、覚悟していた衝撃は全く無かった。
薄く目を開くと、高速で流れていく景色が飛び込んでくる。
彼らはどうやら屋根から屋根へと飛び移りながら走っているらしい。
色々と許容量を超えた翔大の脳内で、これは夢だ、という現実逃避が始まりかけた頃、二人の足が止まる。
「とーちゃーく!」
そんなイオリの台詞と共に、数分ぶりに翔大の足は地面を感じた。
下を見たくなかったが為に、閉じられていた目を開くとそこには、
「よーこそ」
周りのビル群にはまるで馴染まない、どでかい日本家屋があった。
ぱっかりと口を開いた翔大の背を押し、イオリはシオンが開けた門をくぐる。
中庭には丁度見頃らしく、色とりどりの紫陽花が咲き誇っていた。
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