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その時
店の前に赤いタクシーが止まるのが見えた。
慌てて自分の車に戻る。
あらかじめ自分の車を彼に伝えておいたので、もしタクシーから降りて来たのが彼ならば、車に近づいて来る筈だ。
深く帽子を被った大きなバックを下げた30半ば位の男が近づいて来た。
誠に間違いない。
車の窓を半分程開け、近づいて来る男に軽く会釈をし、彼を見た。
その瞬間、今この場所に自分がいることを後悔した。
何故なら
彼の鋭い目つき、ヤクザを思わせるような容姿に一瞬にして、恐怖感を抱いてしまったからだ。
昨日まで、いや、たった今まで胸の中で膨らんだ誠への印象、そして淡い想いが吹っ飛んだ。
逃げ出したい気持ちを抑え、必死で笑顔を作った。
後悔していた。
“所詮、テレフォンダイヤルで知り合う男なんてこんなもんか”
“少し話したら何とか言い訳でもして帰ろう”
しかし、この出会いがあたし真由子の人生を一変させる何てこの時は思いもしなかった。
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