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漆黒の闇が広がる。
墨で塗り固めたような暗闇。
私は、この闇が怖くて恐くてたまらない。
「大丈夫だよ。ヒメ。」
「ヒコ。」
傍らにたつ、自分と変わらない背丈の子がにっこりと笑う。自分の手さえ分からない程の暗闇にも係わらず、ヒコは淡い光を纏っているかのようにはっきりと見てとれた。
「ほら、あそこに花畑があるよ。」
不思議なことに、ヒコが指さすと光が差す。
さっきまで闇しか見えなかった場所には綺麗な花々がある。
ヒコといると暗闇が怖くなくなる。
ヒコといると楽しくて
嬉しくて
悲しくて
切なくて
懐かしくて
時を忘れてしまう。
なぜか、ヒコに触れようとすると触れないのだ。そのことが悲しい。
「コッケコッコォォォォォ」
暗闇に夜明けの長鳴き鳥の声がつんざく。
「ああ、お別れの刻限だね。」
「そんな。もう少し一緒にいたいのに。」
「またいつか会えるよ。」
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