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【過去】エプローグ
「もう…死んじゃおうか」
彼はそう言って刀を手に取った。
私に有無を言わせない。
彼も私も、もう死ぬ覚悟はできている。お互い、なにも言わなくてもわかっていた。
私はそっと彼を後ろから抱きしめる。
『貴方がそれを望むなら…』
彼は泣いていた。
彼が泣いているのを今までに見たことがなかったから私は少し驚いた。
「すまない…」
16歳の彼には苦渋の選択だったのだろう。
彼は私の方を向くと、キスをした。
ずっと唇を貪りたくなる感覚に陥る。
右手に冷たい感覚がする。
いつの間にか私の右手には短刀が握らされていた。
キスを止めると、無言の中、刀と短刀を鞘から抜く音が響く。
「さようなら…また来世で」
私は微笑んだ。
後にも先にも、私の記憶はこれだけだった
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