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うちには可愛い赤ずきんがいる。
フワフワの茶色の髪、クリンとした二重の目、それを縁取る長い睫毛、ピンク色の頬、ぷっくりとした柔らかそうな唇。
そんな可愛い赤ずきんは何時も狼に狙われている。だから………
「た、助けてくれ!」という怯えた声が道場に響き渡る。と同時に
「これで終わりだな」
と囁く誰かの声。それに私は振り上げていた足をゆっくり下ろした。
「ほんと口ほどでもない」
『女だからって手加減しねぇぞ!』
そう私を脅していた柄の悪い男は今、私の目の前で震えている。
まったく……寸どめの回し蹴りで腰抜かすなんて情けない。
大きく溜息をつき肩を回す。こんな試合をするはめになった原因は、弾けるばかりの笑顔でこちらに手を振っていた。
「お姉ちゃん! さすがっ!」
彼女は私の妹、遠野 茜(とおの あかね)。
可愛いこの妹は……モテる、とにかくモテる。
告白された回数、数知れず……強引に迫られた回数もまたしかり……
そういうとき、茜は必ずこう言うのだ。
『お姉ちゃんに勝てたら付き合ってもいいよ。その代わり負けたら諦めてね』
お姉ちゃんとは、つまり私のことで……茜に断られた男達はこの道場で私に決闘を申し込み、敗れていくのだ。目の前にいる男のように。
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