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暗い部屋から鞄を持って出て、一階に降りる。
下にはエプロンを着けて忙しなく動く母親と、椅子に座って新聞を広げる父親の姿があった。
「あ、おはよう」
言われた事に対して、小さく返事をした。
二人は私に特別に関心を抱く訳でもなく、いたら話す程度だった。
だから、本当は私のことを何も知らない。
私は静かな性格で、家ではこんな感じでも学校では友達と仲良くやっている。
そう思い込んでいた。
「…ごちそうさま、行ってきます」
半分残る朝食をそのままにして、家を出た。
歩く道には通勤途中の大人や、通学途中の子供もいる。
でも皆、私からは離れて歩いて、視線を逸らしていた。
まるで、私は存在(イナ)いと、態度で言っているかのように。
私も敢えて視線を向けずに、ただ歩く方向だけ見て歩く。
今の時間なら学校に行くのが当然。でも私の足は、逆方向に進んでいた。
離れた所にある空き地。ここは人通りが少なく、人に見られる心配はない。
学校に行くのが嫌な時はここに来る。だけど、近い内にここに何か建物ができるらしい。
そうしたら、私はどこに行けばいいんだろう。行く宛もなく、居場所もなく。
私、なんのためにここに存在(イル)んだろう。
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