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「健康、ね……確かにそうかもな」
少し笑いながらそういう彼は煙草を携帯用の灰皿に入れてしまった。
振り返りこちらを見た彼は伸びた黒い髪を横に流し白いシャツにデニムのパンツにサンダルというラフな格好をしていた。
黒い瞳は少し光を失っている印象を受ける。
「あ、消しちゃったの?冗談だったのに……」
体内洗浄が出来る今時に煙草の事で健康うんぬん言われておかしな奴だと思われたのかもしれない。
少しばつが悪くなり誤魔化そうとしてしまいながら言い彼を見る。
そこである事に気づいた。
「いや、その通りだしな。それに吸い終わる頃だった」
彼が言い終わるのを待ち尋ねる。そうである事を願いながら。
「もしかして魔神を倒した英雄のラーズさん……ですか?」
「ああ、英雄とか何回言われても違和感があるが。魔神を倒したラーズで合ってる」
少しパチパチと瞬きをして彼は言う。
合ってた。彼が魔神を倒し世界を救った英雄、私が恋した人。
何故か呆けている彼の手を取り両手で包み込む。
「よかった、一度直接会ってお礼を言いたかったの。世界を救ってくれてありがとう」
自然と言葉が出る自分に少し驚いたけど素直な気持ちを伝えれた。
ほぼ単独で魔神の軍を相手にボロボロになりながらも勝利を収め世界を救った英雄。
魔神を倒した後、意識を失い一週間も生死をさ迷っていたと聞いた。
それほどの傷を負いながらも意識が戻り今では煙草を吸い平然としてる彼が少し可笑しく、とても愛おしく思えた。
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