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「なっ…」
「私は、それなりに運命論者でね…生まれつきの才能とかを信じるクチなんだよ。友情だ勝利だなんて反吐が出る」
初めて見る饒舌な原先生の持論に、私達は気圧されてぐうの音も出ない。
「そんな私でも勉強の努力だけは評価しよう。あれはいい物だ。他者を蹴落とす最高の瞬間だ。スポーツじゃダメだ。やはり頭が他者を裏回るというものは楽しい」
言うだけあって、原先生はイギリスにあるかの有名な街が大学となっているあの大学を卒している。
でも…こんな…こんな腐り切った考えから行事や催し物嫌いが…?
「さあ、これでもまだ甘い事を言えるか?」
本当はここまでバラす気は無かったのかもしれない。だけどあの据わった目を見る限り、引っ込みがつかなくなってしまったのだろう。
「学生は学生らしく教師の言う事を聞いて勉強していればいいんだ」
そんな事は無い。学生の仕事は他にもある。だが、誰も口を開けない。握った拳を使えずに、言葉を無くしてしまっている。勿論私も。
「さあ!?碓氷!?」
「ッ」
だが、先ほどトラブったのであろう、火塚君の名前を叫んだ時。ふわっと私の意思は宙に浮いた。
「…私は、奇跡を信じます」
『!?』
その場の全員の視線が、突然語り出した私に集まるのを感じる。でも、勝手に体が動く。口が動く。まるで操られてるみたいに。
「確かに、運命はあると思います。どこの家庭に生まれるのかなども然り、変えられない事ってあると思います。…でも、本当に。自分のためであり、誰かのために運命に抗おうとした人って。奇跡を起こせるんですよ」
すらすらと、こんな事自分が考えていたのかと思えるほど滑らかに言葉を紡ぐ。そう、諭す時の火塚君みたいに。
「私は身近な人で、その奇跡を二度…見て来ました。聞いたのは一回」
二回は私を助けてくれた時。一回は先輩を助けた時。 どちらも奇跡と呼んで差し支えないはずだ。
「でも。そんな奇跡を起こせる彼は、一度もその事を自慢した事は無いんです」
(俺が助けたんじゃない。その人に助かりたいって強い意志があったから、たまたま俺がそれに気付けた)
そんな彼の姿を思い浮かべる。もうちょっと。もうちょっと頑張ってみるよ。
「そんな…そんな彼だから応援したい。今学校中で、その事を知った人たちが動き始めようしています」
すでにT○itterなどで学校に拡散は始まっている。動き出すまでは時間の問題だ。
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