3225人が本棚に入れています
本棚に追加
「どど、どうしてここに!?」
「新垣さん、凄い強運ですね。四階の教室前、全力疾走してたじゃないですか。ちょうど先生出払ってたんで、ダッシュで来ましたよ」
「あ…なるほど…」
燐火ちゃんは一年生。階段を上がった事によって生存フラグを建てたんだ。そんな事考えずに走ってたけど、本当によかった。
「…先輩が走ってるだけなら何だろうで済んだんですけど…後ろに原がいたので」
嫌そうな顔で気絶している先生を見やる燐火ちゃん。ひ、火塚君と間違えてごめんなさい。
「…本当にありがとう」
「いえ、新垣さんから勇気貰った生徒、多いですから」
化学室から出ながら燐火ちゃんはちょちょいと携帯を操作して私に見せたくれた。そこには…
「わ、私!?」
2chや動画投稿サイトで、私や他の生徒、その他学校特定になる物を非常にうまく隠し、先生だけ顔を出してある動画が拡散されていた。
「だ、だれがこんな事…」
「まぁまぁ。カッコ良かったですよ先輩。それよりも、早くヒヅ兄のとこ行かないと」
ソワソワした様子で、乱れた髪の毛を直す燐火ちゃん。乙女だなぁ。そんな乙女の燐火ちゃんに免じて、肖像権は黙っててあげよう。
「あぁ…先生どうしよう」
置き去りにしてきた原先生の処遇を悩む私に、
「捨てましょうよあんな男。いつも私とか詩音に突っかかって来て」
相変わらず嫌そうな姿勢を崩さずに顔をしかめる燐火ちゃん。まぁ、どうせ火塚君意外の男の子に興味なんてないんだろうけど。ま、まぁ私も。
「…新垣さん」
「?」
小走りで一階を目指している間、不意に燐火ちゃんが、前を向いたまま話しかけて来た。
「先輩の話の中の『彼』って…ヒヅ兄ですよね」
「えっ!?そ、そんな事まで知られてるの!?」
燐火ちゃんもしっかり動画を見ていた事に驚く。これは…後戻り出来ないかもしれない。
「…ありがとうございます」
「…え?」
突然礼を言われて再度驚く。
「あんなに自分の兄が信じてもらえてると…やっぱり嬉しいです」
素直な笑顔でこちらを見る燐火ちゃん。ああ、これは惚れる人の気持ちが分かるかもしれない。素直な燐火ちゃん、すっごい可愛い。
「火塚君に言ってあげたら良いのに」
からかうように私が笑うと、少し赤くなったままふいっと顔を逸らし、
「…言うと調子に乗るんで言いません」
と答えてくれた。可愛い。
最初のコメントを投稿しよう!