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そのまま階段を下り、二階まで下りた時、廊下から走り寄る音が聞こえたので振り返ってみると、
「燐火ちゃーん!」
「お姉ちゃん」
燐火ちゃんのお姉さん、帆乃火さんが合流した。
「燐火ちゃんからねぇ、新垣さんが危なかったって聞いたんだ。大丈夫?」
「はい!妹さんが間一髪で助けてくれました。ありがとうございます。…でも…」
私達、普段は…と繋げようとしたら、お姉さんにそっと唇に指を当てられて、
「それはそれ、これはこれ、だよぉ。同じ人を好きな人が嫌な目に会うのは嫌だもん」
と笑ってくれた。ああ、何でこんなにこの姉妹は可愛いんだろう。
「それにぃ、動画でひーくんの事庇ってくれたもんねぇ」
「あっ、あれはっ」
羞恥で顔が真っ赤になる。今思えば結構恥ずかしい…!
「ひーくんも喜ぶと思うよぉ。問題はあの先生だよねぇ…ふふ。どうやって再起不能にしてやろうか」
「お姉ちゃん、キャラキャラ」
「あははっ」
どんどん縮まる距離に感動しながら一階に着く。
「さーて、ひーくんはどこかなぁ」
「すぐ分かるでしょ」
「あ、あれは…」
三人一緒に、濡れる事も気にせず制服で昇降口を飛び出す。するとそこで見た光景とは…
ーーーーーー
『虹の彼方に』
六月六日
碓氷火塚
グラウンド
「…ふぅ、こんなもんか」
もう少ししたら教室で大変な事が起こるとは露知らず、俺はグラウンドで体育祭に関係ない場所にそれなり程度に大きめな穴を掘り、そこに水を貯める事にした。なんせ排水溝はすでに使い物にならんからな。
「さあて。一人でも寂しく無いぞ」
雨にかき消される空元気を出しつつ、よくトイレ掃除なんかで使われる、水を捌けるためのゴムのついたブラシのような物を使い、端から端まで全力ダッシュ!
「おんどりゃぁぁぁぁ!!」
効率?何それ美味しいの?俺は穴に向かって土の上の水分を全力で配達。『ぴしゃっ』と虚しい音がして、中にそれなりに水が溜まった。
「…はは」
本当に、こんな事で意味があるのか。改めて再確認させられるほど小さ過ぎる一歩。救いとすれば、少しだけ雨が緩くなった所ぐらいか。
「なに…やってんだろうな、俺」
反対側にも穴を掘りつつ呟く。気分は、自分で何でも出来ると思っていた厨2病の人が現実をつきつきられた気分だ。
「オラオラオラオラオラオラ!!」
それでも気持ちだけは折れまいと、無駄に叫びながら駆け抜ける。…ジャージ、冷てぇ。
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