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「ハァ…ハァ」
ぱしゃり。半分行くか行かないかの所で、穴に雨水が溜まり限界に。新しい穴を掘ろうとしたが、疲れてそのまま仰向けに倒れた。
(遠くは…雲が無いや)
本当に目視できる限界の空の果て。最早雲の切れ間も見えている。だけど。
「もう…無理」
ゴムブラシを手から離し、ゆっくりと目を閉じようとしたその時。
「何が無理だって?」
「…その声は」
聞き慣れた声が聞こえて来たので、声の主の方向へ振り返る。
「やはり、思った通りだ。こんなにびしょ濡れで…」
「…火織姉」
急いで来たのだろう、いつものオシャレな装いは何処へやら、濡れても良い最低限の服装で、火織姉が傘を持って立っていた。
「なんで…ここに?」
「朝のうちに二人から聞いていた。取り憑かれたように走って行ったと」
「それで心配になって出てきた…って?」
「ああ」
成る程。それならここに火織姉がいる理由も分かる。なので、俺はそんな優しい火織姉に…
「…そうか。じゃあ、もう帰っていいよ」
「…え?」
冷たい言葉を浴びせた。拒絶されるとは思っていなかった様子の火織姉に続ける。
「これは俺の自己満足だから。火織姉を巻き込むべきじゃない」
「そんな事…!」
「火織姉」
俺は、諦観なのか悲観なのか、はたまた苦痛なのか、感情がない交ぜになった顔で火織姉を見た。
「一人で…やらせてくれ。じゃないと…また夢見ちまうから」
誰かとやると、まだ出来ると希望を持ってしまう。一人なら無い。絶望だけだ。 俺は取らぬ狸の皮算用はしたく無い。
「「…」」
しばらくお互いに無言の状態が続き、火織姉が一歩動いたのが分かった。これで諦めてくれたのかと思ったが、火織姉はこう告げた。
「…火塚。結果の無い努力は無駄だと考えてないか?」
「ーーーッ」
何を。なんで今。言いたかった言葉はあるのに口からは出てこない。
「お前は、昔から諦めなかったよな」
思わず上体を起こし、火織姉を見る。遠い昔を懐かしむように、火織姉は目を細めた。
「戦隊モノや仮面ライダーに憧れててさ。正義感と根性で地域の人気者だった」
…そんな、本人ですら覚えていないような事をよく覚えているものだ。俺は中1以前の記憶は家族との思い出以外思い出せん。
「さあお前の罪を数えろ!絶望がお前のゴールだ!」
「いや、俺の少年期にそんな事言うライダーいなかった」
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