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『ドォォォン!!』
今まで掘っていたのとは規模が違う、馬鹿でかい穴が空いた。
「…さて、これからが本番だよ、火織姉」
「だよなぁ…はぁ、穴を開けただけで満足してた」
お疲れな火織姉を横目に、スコップを持ち出す。
「それで何をするつもりだ?」
「傾斜を計算して、水路を作る。さっきまでの俺はアホだった」
何がゴムブラシ無双だよ。こうした方が効率も含めて最良だったんじゃないか。
「ほら、火織姉も手伝って」
「ええ…ふさぎこんだ弟を優しく激励した姉へのご褒美は無いのか?覚醒!長女萌えとか!」
「ここは…何度がいいかな…」
「最早聞いて無い!?」
ーーーーーー
「終わった!」
「はぁ…私はもうダメだ。風邪も引いた。ペンタブすら使えん」
「あはは、仕事なら手伝うよ火織姉」
二人で作業をしてから約20分。校庭には細い水路が大穴に向かって伸びていた。弱くなった雨と相俟って、ほぼ校庭に水は無くなった。
「後は、貯めた水をあっちの用水路に流すだけだな…」
排水溝が使えないので、校庭の奥にある、川と繋がっている用水路まで水を運ぶ必要がある。もともと地面によく水が沈んでくれる土地なら放置でいいし、それなら最初から穴など掘らないのだが、ここはそんな良い土地じゃない。
「中々の重労働だな…」
「ほら、協力してくれるんでしょ?」
ワザと悪戯っぽく言ってみる。案の定火織姉は、ニヤリと口の端を上げると、
「…見返りは弾めよ」
よっこらせと美人にあるまじき掛け声と共にバケツを持った。
「火塚くーーんっ!!」
と、同時に校舎の方から人が走ってくるのが見えた。
「ひーくぅぅぅん!」
ガバッ
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん落ち着いて!」
制服のまま、奏と姉さん、燐火が校舎から飛び出して来たかと思うと、姉さんが俺のびしょ濡れの胸に飛び込んで来た。
「ひーくん。ひーくん」
「あわわ、どうしたんだよ姉さん、そんなに抱きつくなって」
皆の前である事などお構いもせずにグリグリと顔を押し付けてくる。まるで人懐っこい犬だ。
「…心配、したんだから」
グスッと少しだけ不満げな上目を向ける姉さん。
「…全くよ」
奥ではチラチラこちらの様子を伺いながらも顔を逸らそうとする燐火。
「…良かった、無茶してなくて」
そして目の端に、雨とは違う雫を浮かべた奏。
そんな皆に、今言う事は一つ。ごめんじゃない。
「…ありがとう」
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